「もっと自分に自信を持ちたい」 「自分を後回しにしてしまうクセを変えたい」
そんな風に思い立ち、本を読んだり、普段行かないような素敵なカフェやホテルのラウンジに行ってみたりして、「理想の自分」になろうと試行錯誤した経験はありませんか?
けれど、少し時間が経つといつの間にか元の感覚に戻ってしまい、「やっぱり自分は変われないのかな」「意志が弱いのかな」と落胆してしまう……。
もしそんな風に悩んだことがあるなら、知ってほしいことがあります。 あなたがなかなか変われないのは、性格や意志の弱さのせいではありません。
今回は、私が起業したばかりの頃に手探りで実践していた実体験と、大学院で出会ったフランスの社会学者ピエール・ブルデューの「ハビトゥス」という概念を重ね合わせながら、自分を縛る「セルフイメージ」の正体を静かに解きほぐしてみたいと思います。
セルフイメージの正体=「身体に染みついた思考のクセ」
「セルフイメージ」とは、自分が自分に対して抱いているイメージや、無意識の前提のことです。
このセルフイメージは、幼少期からの家庭環境、親からの言葉、周囲から期待されてきた役割などの積み重ねによって形作られていきます。
これを社会学では「ハビトゥス(身体化された思考や選択のクセ)」と呼びます。
私たちは幼い頃から、家庭や社会の中で割り当てられた役割(例えば「周りを優先すること」や「一歩引いて遠慮すること」)を繰り返すうちに、自分でも気づかないうちに「自分がどうしたいか」よりも「他者が自分に何を望んでいるか」を優先する心のクセを身体に染み込ませていきます。
つまり、「自分に自信が持てない」「自分を後回しにしてしまう」と感じているとき、私たちは自分の性格に悩んでいるのではありません。社会や環境の中で長年かけて身体に染み込まされた「思考のクセ(ハビトゥス)」をそのまま引きずっているだけなのです。
なぜ「いつもと違う場所」に行くとセルフイメージが変わるのか?
セルフイメージを変える方法としてよく語られるのが、「いつもと違う場所に身を置く」「憧れの人が行くような場所に行ってみる」というアプローチです。
私も起業したばかりの頃、「自分に自信を持ちたい」一心で、普段の手軽なカフェではなく、ホテルのラウンジでコーヒーを飲んでみたり、素敵なシェアオフィスを借りて仕事をしてみたりしていました。
当時は単なる「形からの背伸び」や手探りの行動だと思っていましたが、大学院で社会学を学んだ今、あの行動の意味が深く腑に落ちました。
一見すると「ただの背伸び」や「形から入っているだけ」に思えるこの行動も、ハビトゥスの視点から見ると、非常に理にかなったトレーニングです。
社会学では、「人は身を置く場所のルールや空気に合わせて、無意識に振る舞いや言語、思考を選択し直す」と考えられています。
- 普段行くカフェから、静かで落ち着いたホテルのラウンジへ行ってみる
- いつもの家での作業から、刺激のあるシェアオフィスに身を置いてみる
最初は「自分なんかがここにいていいのだろうか」と強い違和感を覚えるかもしれません。しかし、その場所に漂う空気や立ち振る舞いを自分に許可することで、自分の中に染み付いていた「古い思考のクセ(ハビトゥス)」が少しずつ解かれ、新しい自分としての選択肢が広がっていくのです。
無意識のブレーキを脱ぎ捨てて、新しい自分を選ぶ
今でも時折、家族の予定や日々の役割、将来への不安といった「昔のハビトゥス」が顔を出して、立ち止まりそうになる日があります。
「私なんかが自分の時間や学びに投資していいのかな」と、無意識にブレーキをかけそうになる瞬間もあります。
けれど、あのときホテルのラウンジで緊張しながらコーヒーを飲んだ日と同じように、今の私は「教科書を開く」「自分の時間や選択を大切にする」という新しい行動を重ねています。そうやって、自分の人生のステージを一つずつ選び直しているのだと感じます。
自分を変えられないのは、意志が弱いからでも、性格のせいでもありません。 身体に染みついた思考のクセ(ハビトゥス)に気づき、置く場所や選択を少しだけ変えていくこと。
「自分の性格」と切り離して捉える社会学の視点は、無意識のブレーキから解放され、自分らしい選択を重ねていくための静かな助けになってくれます。

